『MUSCLE CIRCUS ~おもちゃの大冒険』出演者特集
「点数ではなく、感動を届けたかった。」新体操歴20年。
競技人生の先の本当に輝ける舞台――表現者・木部真由莉

木部 真由莉
Mayuri Kibe
舞台に静寂が訪れます。
ゆっくりと照明が落ちる中、一人のパフォーマーが静かに姿を現します。
まるで獲物を狙う蛇のように、しなやかに身体を揺らし、指先まで神経が行き届いた美しい動きで舞台を支配していきます。
柔らかく流れるような動き。
一瞬で空気を変える存在感。
新体操で20年間磨き続けてきた身体表現だからこそ生まれる、息をのむような美しさがあります。
サムライ・ロック・オーケストラ(SRO)『MUSCLE CIRCUS ~おもちゃの大冒険~』で蛇役を演じる木部真由莉さん。
2017年にはインターハイ個人総合6位、2018年には国民体育大会総合3位、さらに全日本新体操選手権にも出場。全国トップレベルで戦ってきた新体操選手です。
しかし、彼女が本当に憧れていたのは、「勝つため」の世界だけではありませんでした。
10歳の頃に観たシルク・ドゥ・ソレイユ。
その舞台が、木部さんの心に大きな夢を残しました。
「点数ではなく、誰かの心を動かす舞台に立ちたい。」
競技者として生きた20年。その先に見つけた、本当の夢の物語です。


物心ついた頃から
始まった新体操人生
木部さんが新体操を始めたのは、物心がつく前でした。
「正直、始めたきっかけは覚えていません。」
母親が新体操やカラーガード、フラメンコを経験していたこともあり、ごく自然に新体操の世界へ入りました。
それから20年間。
新体操は生活であり、人生そのものでした。
福井県で育ち、全国トップレベルの選手として歩み続けます。
2017年にはインターハイ個人総合6位入賞。
2018年には国民体育大会総合3位入賞。
さらに全日本新体操選手権にも出場するなど、国内最高峰の舞台で実績を積み重ねてきました。
その後、東京女子体育大学へ進学。
大学では4年間、個人選手として新体操に向き合い続けます。
現役最後の大会となった大学4年生の全日本選手権。
「この試合で引退すると決めていました。」
4種目を最後まで演じ切った瞬間の達成感は、今でも忘れられないと話します。
「本当に幸せでした。」
そう振り返るその舞台は、長年積み重ねてきた新体操人生の大きな節目となりました。
しかし、その後も競技人生は終わりませんでした。
実は、試合が苦手だった




しかし、意外な言葉が返ってきました。
「私は、試合より練習のほうが好きでした。」
採点される世界。
評価される世界。
「ちゃんとやらなきゃ。」
「失敗してはいけない。」
そう思うほど、本来の自分を出せなくなってしまう。
そんな自分に悩み続けていました。
もちろん、競技には競技の素晴らしさがあります。
新体操を通して強くなれたことも、成長できたことも、数え切れないほどあります。
けれど木部さんの心の奥には、ずっと別の憧れがありました。
美しいものを、ただ美しいと感じてもらえる世界。
すごいものを、ただすごいと感じてもらえる世界。
ルールや点数に縛られず、身体表現そのもので人の心を震わせる舞台。写真は小学校4年生の頃。10歳で出会ったその憧れは、時間が経っても消えることはありませんでした。
一度は夢から離れた
卒業後は東京女子体育大学に残り、コーチとして後輩の指導に携わりながら、自身も社会人選手として一年間現役を続けます。
幼い頃から始めた新体操。気が付けば20年間、人生のほとんどを新体操とともに歩んできました。そして現役を終えたあと、一度競技から離れ、一般企業へ就職します。
それは夢を諦めたからではありません。
「少し、頑張ることに疲れてしまった。」
そんな時間だったのかもしれません。
しかし、身体を動かさない毎日は、どこか物足りなさを感じていました。
「競技ではなく、人を感動させる舞台に立ちたい。」
その想いだけは消えることがありませんでした。
そんな時、大学の先輩を通じてサムライ・ロック・オーケストラを知ります。思い切って送った一本の問い合わせメール。すると、その日のうちに池谷直樹さんから電話がかかってきました。
「あっという間でした。」
そう笑って振り返る木部さん。
人生は、たった一本のメールで大きく動き始めたのです。



サムライが教えてくれたこと
高校時代は、新体操が嫌いでした。
辞めたくて仕方がありませんでした。
それでも続けてきたからこそ、今があります。
大学では、自分の意志で新体操に向き合えるようになりました。
そしてサムライに入ってから、もう一つ大きく変わったことがあります。
「人に頼れるようになりました。」
現役時代は、
「私がちゃんとしなきゃ。」
「迷惑をかけられない。」
そんな気持ちで、一人で抱え込んでいました。
しかしサムライには、頼れる先輩たちがいました。
「頼っていいんだ。」
そう思えた瞬間、心が驚くほど軽くなったそうです。
自分自身へ課していた厳しすぎるハードルも少しずつ下がりました。
今は、純粋に踊ることを楽しめています。
現役時代には考えられなかった変化でした。
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柔らかい「オーピス(蛇)」
今回演じる役は、「オーピス(蛇)」。
見どころは、新体操で培った柔軟性を生かした身体表現です。
足先から指先まで流れるように動き、音楽に溶け込むように舞台を進む姿は、まさに一匹の蛇。
しなやかで、美しく、どこか妖しい。
その存在感は、他のキャラクターとはまったく違う空気を生み出します。
自分のパフォーマンスを一言で表すなら、
「柔らかい蛇。」
その言葉通り、身体全体で音楽を表現する姿は、まさに芸術です。
競技では点数になっていた柔軟性が、今は観客を魅了する武器になっています。


一切の妥協がな い15分
バックヤードツアーに参加した方だけが知っている光景があります。
暗幕の裏側・客席開場の約15分。
出演者たちがそれぞれ準備を進める中、木部さんは一人、静かにステージへ向かいます。
イヤホンを耳につけ、誰もいない舞台で立ち位置を確認し、身体の向き、視線、歩幅、タイミングを何度も何度も繰り返します。
本番さながらに身体を動かし、納得がいくまで場当たりを続ける姿。
その表情には、一切の妥協がありません。
舞台で見せる優雅な演技の裏には、この誰にも見えない努力があります。
バックヤードツアーでは、そんな木部さんの真剣な姿を見ることができるかもしれません。
華やかな舞台とはまた違う、一人の表現者としての覚悟に触れた瞬間、この舞台の見え方はきっと変わります。
幕が上がる
瞬間に感じるもの
今回の舞台で木部真由莉さんが演じるのは、「オーピス(蛇)」です。
彼女が舞台に姿を現れた瞬間、不思議なことに客席の空気が静かに変わります。
歓声ではありません。
思わず息をのみ、その一挙手一投足を目で追ってしまうのです。
20年間、新体操と向き合い続けてきた身体は、もはや競技者のものではありません。
その身体は、一匹の蛇として舞台の上に命を宿します。
身体を大きく反らせる姿は、人間とは思えないほど滑らかな曲線を描き、静かに獲物を見つめる蛇のように
ゆっくりと、そして妖しく動き出します。
激しく動いているわけではないのに、なぜか目が離せない。
静寂の中にある緊張感が、舞台全体を支配していきます。



そして、リボンを手にした瞬間、世界は一変します。
虹色のリボンが大きく空を描き、その軌跡を追うように、木部さんの身体がしなやかに舞います。
高く伸びた脚。
一点の曇りもないつま先。
指先の角度まで計算された美しいライン。
新体操で積み重ねてきた20年という歳月が、一つひとつの所作から伝わってきます。
特に息をのむのは、その跳躍です。
床を蹴った瞬間、身体は大きく弧を描き、まるで重力を忘れたかのように空中へ舞い上がります。
写真では一瞬しか残らないその姿も、生で見ると時間が止まったような錯覚を覚えます。
「あんなに長く空中にいられるものなのか。」
そう感じるほど、美しく、軽やかなジャンプです。
しかし、木部さんの魅力は、その柔軟性や技術だけではありません。
蛇という役に命を吹き込む表現力です。
静かに相手を見据える眼差し。
空気をなぞるように動く指先。
音楽に呼吸を重ねるような滑らかな身体の流れ。
その一つひとつに意味があり、セリフがなくても感情が伝わってきます。
サムライが、生きがいです
最後に、今の自分を一言で表してもらいました。
少し照れながら返ってきた言葉は、
「明るくなりました。」
現役時代を知る人からは、
「楽しそうだね。」
「本当に明るくなったね。」
そう言われるそうです。
そして、笑顔で続けてくれました。
「今の私は、サムライが生きがいです。」
苦しかった競技人生。
一度夢から離れた社会人生活。
遠回りをしたからこそ、今の幸せがあります。
「あの頃があったから、今があります。」
その言葉には、20年間の競技人生すべてが詰まっていました。
現在は、新たな挑戦として逆立ちからコントーションのような柔軟技の習得にも取り組んでいます。
進化は、まだ止まりません。

積み重ねてきた時間と
誰にも見えない努力
気づけば、物語ではなく「オーピス(蛇)」という存在そのものを見つめている自分がいるはずです。
木部さんは決して派手に自己主張するタイプではありません。
けれど、不思議と視線が吸い寄せられる。
主役ではない場面でも、その存在が舞台の空気を支え、物語の世界観をより深く、美しく彩っています。
その美しさは、決して才能だけではありません。
インターハイ、国民体育大会、全日本選手権。
全国最高峰の舞台で結果を残してきた競技者だからこそ、今度は点数ではなく感動を届ける表現者として、新たな挑戦を続けています。
ぜひ会場では、蛇役として魅せる繊細で美しい身体表現に注目してください。
そして、バックヤードツアーでは、本番直前まで一人で舞台と向き合う真剣な姿を。
さらにサイン会では、舞台上の凛とした表情とは違う、穏やかで優しい笑顔にも出会えるはずです。
応援してくれる皆さんからの一言やSNSで寄せられるメッセージが、舞台に立ち続ける大きな力になっていると木部さんは話してくれました。
競技者として点数を追い続けた20年。
そして今は、誰かの心を動かすために踊り続けています。
美しさとは、技術だけではありません。積み重ねてきた時間と、誰にも見えない努力があるからこそ、人の心を動かします。
木部真由莉さんが届ける「オーピス(蛇)」の世界を、ぜひ劇場で体感してください。
